東京高等裁判所 昭和28年(う)1094号 判決
被告人 佐藤栄作
〔抄 録〕
弁護人の論旨第一点及び第二点について。
原判決がその理由において、「被告人は第一、(イ)昭和二十七年十二月二十一日頃肩書住居に於て、長野県上田市連歌町料理店福島屋ことAが兼ねて婦女を雇入れ之に売淫させることを営業としていることを知りながら、同人に対し売淫婦として甲(当二十年)を周旋し(中略)以ていずれも公衆道徳上有害な職業の紹介をなし」との事実を認定判示し、これに対して職業安定法第六十三条第二号を適用処断していることは、所論のとおりであるが、しかし、原判決の右判示事実は、所論の甲を売淫婦として周旋したとの点(即ち、所論のように、被告人は右甲を売淫婦にしようとして周旋し、右甲は売淫婦に就業するために雇われ、雇傭主Aは同女を売淫婦として就業させるために雇い入れたものであること)をも含め、すべてその挙示する証拠をそう合することによつて、これを肯認することができるのであるから、原判決には、この点について所論のような証拠によらないで事実を認定した違法があるものということはできない。次に、被告人が本件の婦女らを紹介した先の雇傭主である原判示A、同Bらが、いずれも、風俗営業取締法等によつて、その営業を公認されているいわゆる特飲街又は赤線区域内の業者であることは、記録に照らし所論のとおりであるが、しかし、所論のいわゆる特飲街、又は赤線区域内の業者といえども、風俗営業取締法、同法施行条例による取締の対象から除外された例外的なものではなく、右取締の枠内において、料理店又はカフェーとして、客席で客を接待して客に遊興又は飲食をさせることを公認されたに過ぎないものであつて、決して、婦女をして売淫行為を職業的に行わせ、営利を図る業態までをも公認されたものでないことは明らかであるといわなければならない。而して、原判決挙示の証拠によれば、前示A、Bの両名は、いずれも、これまで、事実上、その雇い入れた婦女らをして、職業的に売淫行為を行わせ、利益を得ることをその営業として来た者であり、本件の婦女らを雇い入れるについても、右と同じく、同女らをして職業的に売淫行為を行わせる目的で雇い入れ、同女らも亦、これを承諾の上雇われたものであり、被告人は、当初よりこれを知つてその周旋をしたものであることが認められるのであつて、このように、婦女をして、職業的に売淫行為をさせることは、たとえ、その就業場所が一定の地域内に局限され、且つ、衞生上の設備その他の点にある程度の注意が払われていることが所論のとおりであつたとしても、なお、公衆道徳上有害であることは、けだし疑を容れないところであるといわなければならない。してみれば、被告人が原判示甲、同乙の両名を周旋した右所為は、いずれも、職業安定法第六十三条第二号所定の公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介を行つた場合にあたるものというべく、従つて、原判決がこれに対し、同法条を適用処断したことは正当であるから、原判決には、この点につき所論のような法律の解釈を誤り犯罪構成要件を具備しない行為を処罰した違法があるものということはできない。
故に各論旨はいずれもその理由がない。